『アヒルと鴨のコインロッカー』

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

図書館本かつ共有本棚本。盛大にネタバレするので、知りたくない人はこの下読まないように注意。あと罵倒しまくってますので、要注意。







現在の本屋襲撃と、過去の犬猫虐殺事件のパートが交互に語られるのですが、人物の叙述トリックはわりと早い段階で気づけると思います。具体的に言えば、カワサキ=ドルジという現代パートのからくりのことです。このからくりに早い段階で気づいてしまえば、本屋襲撃の真相も読めてしまいます。残る興味は過去パートでの具体的な展開なのですが、これは「馬鹿女」のおかげで「醜悪」の一言に尽き、彼女のせいでこの物語自体が胸糞悪い吐き気のするものになってしまいました。馬鹿女って琴美のことですけど、言うまでもないですね。
具体的にいきましょう。彼女はペットショップに勤め、犬猫虐殺グループに遭遇し顔も見たのに警察に届けません。警察に関わりたくない事情があるのか(たとえば前科持ちとか、実は不法滞在のアジア人とか)、と思い読み進んだのですが、彼女が警察に通報しなかった理由が「犬猫が殺された程度では警察は動いてくれないから通報しない」というドアホな思い込みという、ほんとにただそれだけだったのです。唖然としました。
作中、琴美は犬猫虐殺グループに身元を突き止められ、脅しの留守電をかけられ、おまけにその電話越しに猫の断末魔を聞かされても行動を起こしません。おまけにその留守電を消去してしまいます。物的証拠なのに!この猫だって琴美が警察に通報していれば殺されなかったかもしれないのに、お前は本当にペットショップの店員なのかと殴りつけたい衝動にかられます。文中において彼女は徹底的に逃避し、動物園でなごんだり、バッティングセンターでかっ飛ばしたり、でなければ単純に怖がるばかり。しかも襲われそうになるとドルジや河崎が助けてくれるわけですが、それだって友人たちを危険に晒す行動です。挙句、自分が犯人のクルマにはねられ即死は別にいいですが、その結果、ドルジと河崎を復讐に駆り立て彼らを悲劇に追いやっていくという、死んでまで害を撒き散らすこの醜態。どうしようもなく最悪な女です。
この話は琴美が警察に届け、ペットショップの美人に相談し、近隣住民や動物団体の力を借りるなど、ほんの少しのプラスの行動力があれば、成立しなかった物語です。文中で語られた、ここに書き綴るのもおぞましい具体的な虐待例を見れば、たいていの動物好きはなんとかしなければと思うはずです。なにが許せないって、私はその点が一番許せません。犠牲になった動物たちの具体的な苦痛のほどを知らなかったならともかく、琴美はそれを知りつつ犯人の情報を自分の中に押し隠し、不安だというばかりで何もしない。ほんとうに気持ち悪くて理解不能
この物語の過去パートが何年代の設定なのか、具体的には分かりません。けれど、エイズのカクテル療法が知られていることから、そんなに昔のことではないと思われます。酒鬼薔薇事件が90年代半ば過ぎで、虐殺の対象が動物から人間に移行するという話が広く伝わったのも多分この頃と記憶しています。これ以前か以後かで琴美の「思い込み」の愚かさ加減は若干変わってくるかもしれませんが、最悪なことは動きません。『このミス』で2位だそうですが、評価した人たちはこの不快感をどう処理したのでしょうか。
 
怒り狂っていても不毛なので最後に蛇足。本書を読んだうちの家族は、現代パートに出てきたペットショップの美女を「性転換した河崎」だとにらんでたらしい。アクロバティックな読み方です。